2022.07.13

地域にいま必要なクリエイティブ/エンターテイメント思考とは

地域にいま必要なクリエイティブ/エンターテイメント思考とは

<登壇者(※敬称略)>
・中川悠介(アソビシステム株式会社 代表取締役)
・VERBAL(アーティスト / AMBUSH® CEO / LDH JAPAN 取締役)
・西川真央(一般社団法人サスティナブルオキナワ 理事)
・ファシリテーター:金山淳吾(一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事)

『LOOK LOCAL SUMMIT vol.0』のオープニングは、中川悠介さん(アソビシステム株式会社 代表取締役)、VERBALさん(アーティスト、AMBUSH® CEO、LDH JAPAN 取締役)、西川真央さん(一般社団法人サスティナブルオキナワ 理事)の3名が登場。「地域にいま必要なクリエイティブ/エンターテイメント思考とは」をテーマに、それぞれの地方との取り組みの事例から、コロナ後の創生に必要となる思考・視座についてまでを語っていただきました。前半はそれぞれの事業の紹介、後半はクロストークという構成で届けられた本セッションから、本稿は、クロストークのパートをテキスト用に編集したものです。
※全編は映像でお楽しみください。

●地域とアーティストの“組み方”

金山淳吾:「地方創生やってます」と言うと、ちょっと美味しい仕事が回ってきたりとか、補助金が降りやすいこともあったと思うんですけど、それは「日本がインバウンドで経済が回るようになるから、都市部に一極集中しないために地方も頑張ろう」っていう合言葉だったわけです。でも、インバウンドがグレート・リセットされた今、都市部も地方も含めて、どういう創生、再活性化の方法があるのかを考えなければならない。そこで僕がキーワードとして挙げたいのが、「地域の再解釈」なんですね。ここではエンタメやクリエイティビティとの融合という視点で、それをすることで、どういう地方の見せ方や、海外へのアプローチの仕方があるのかを話したいんです。ただ、エンタメとの相性が良い地域や伝統文化と、そうじゃないものもあると思っていて。中川さんはかねてから『もしもしニッポン』などのプロジェクトを通して、“エンタメ×地域”“エンタメ×伝統文化”などをやってきましたけど、相性の良し悪しなどを感じたことはありますか?

中川悠介:相性の良し悪しと言うよりも、エンタメ業界に対して「取っ付きにくい」「わかりずらい」って感じている方がすごく多いと思っていて。翻訳がないとうまく話が伝わらないケースが多いなと感じていました。「荒らしに来た」じゃないですけど、イベントをやって人が集まることで変なことが起こっちゃうんじゃないか、とか。だから、地元の方との会話がすごく重要だなってすごく思いますね。

金山:先ほどVERBALさんには、LDHさんがやられているMIYAVIさんの清水寺でライブの事例や、EXILEの橘ケンチさんの日本酒の取り組みなどを紹介していただきましたが、日本酒なんてかなり伝統的な食文化です。芸能事務所ということで警戒されることは?

VERBAL:めちゃめちゃ警戒されます。パワーを使ってレバレッジ効かせて、「やるよね?」みたいな感じ……が芸能事務所の一般的なイメージだと思うんです。ただ、ケンチくんはそれも分かっているので、蔵元の方と接するときも、当然「日本酒をリブランディングすることで価格が上げられる」みたいなビジネス的なスケール・メリットのことを話すわけじゃない。そういう論点の方じゃないというリスペクトをちゃんとしていて。まずは相手が何をしたいのかを理解して、各社とのコミュニケーションを大事にしています。そういう意味では昭和なやり方ではなく、もう少しセンシティブにアプローチしている感じですね。

金山:西川さんは、芸能事務所やエンタテインメント事業者と一緒にプロジェクトを作った経験は?

西川真央:それこそ“ザ・有名人”の方とかはありませんね。やっぱり地域の人たちと一緒にやることが多いです。

金山:僕は昔、広告の会社にいたんですけど、一定の予算を積んで地域のキャンペーンをやりましょうということがあります。そうなると、「この予算でどんなポスターやCMが作れますか」となって、そこでタレントさんを起用する。つまりタレントさんって、キャスティング対象なんですよね。でも今日の皆さんの話を聞いていると、「一緒に作りましょう」という形で事業を立ち上げている。先ほど中川さんが「翻訳が必要」と言ってましたけど、これまでその機能は広告代理店が持っていたと思うんですよ。でも、今ってたぶん、その機能がなくても繋がることはできる。ただ、やっぱり「芸能事務所、怖いな」みたいな壁がまだあるとは思います。そういった状況を踏まえて、芸能事務所側に変化などはありますか?

中川:僕らでいうと、代理店から頂くお仕事は減っている現実はあると思うんです。ちゃんとクライアントと向き合っていく仕事が増えたなあと。ただの広告契約というよりは、マーケティングやロイヤリティの話も増えてきています。僕らとしては、今はやりやすくなっている時代なのかなって思います。

VERBAL:もちろん協賛をいただくこともパートナーシップの1つだと思いますけど、我々はどちらかというとストラテジック・パートナーシップを求めていているんですよね。要するにコラボをすることで、シナジーが生まれる。酒蔵さんにとってのゴールがもっとビジビリティを増やすことだとすれば、アーティストを通して、不特定多数やアーティストのファンの人に届けることができる。我々からすると、知見を得たい、プロの方とプロダクトを一緒に作っていきたい。だからこそ、やっぱり相手が何をしたいのかをすごく気にかけています。

金山:西川さんが沖縄で作っている『Sustainable OKINAWA』のコミュニティって、コア・メンバーは沖縄の土地に由来する人たちだと聞きました。例えば、沖縄生まれでも沖縄育ちでもないけれど、沖縄のことが大好きなタレントやアーティストがプロジェクトに入ってきて、主体的にやっていきたいとなった場合、それはウエルカムなものなんですか?

西川:プロジェクトにもよると思うんですけど、ちゃんと沖縄を愛してくれている人だったらいいと思います。ただ奇麗なビーチが好きという人から、沖縄の文化、現地の人たちの精神性まで愛してくれている人までいると思うんですけど、なんなら沖縄の人よりも沖縄について詳しい“沖縄ラヴァー”みたいな人、けっこういたりしますから。「泡盛、そんなに知ってるんだ」とか。

金山:「再解釈」って、そういうプロセスなんじゃないかと思っているんです。アーティストと一緒に地域の魅力を作るには、単なる20世紀型のタイアップではなくて、アーティストが地域の魅力を再解釈する行為がすごく大事。もしかしたら地元の人は「いやいや、そういうふうに考えてやっていないよ」ってところまで、「いや、でもそう感じる」って目で見られるってことが、次の時代の共通言語になっていくんじゃないかなって。ちなみに、Z世代の学生たちが多く参加する『Sustainable OKINAWA』は、よそ者と地元の人だけじゃなくて、世代間の断絶や分断っていうのもあったと思うんですよね。「こっちには、何十年も守ってきた私たちの文化がある」みたいな。そういう場合、どういう対話の仕方を?

西山:いや、逆にローカルだと、なんだかんだで、地域の若い子のために何かするってことに対してモチベーションが高かったりするんですよね。一方でSDGsやサスティナブルの話をすると、けっこう皆さん「海の環境を破壊しちゃダメですよね」「なんかSDGs、やんなきゃいけないですよね」って人がすごく多いんですけど、僕はそれはちょっと違うかなと感じています。「もっと誇れる地元作ろうぜ」とか、「俺らこんなイケてる自治体作ったぜ」とか、そういうことがモチベーションになればそれでいい。学生のそういう情熱とかピュアな思いって、前向きなことが多い。僕らのプロジェクトでも、そういうものが良いシナジーを生んでいるのかなって思っています。

きゃりーの事例から見る観光資源3.0時代

金山:僕、これからのアーティストは有名無名にかかわらず、歌ったり絵を描いたりするだけではなくて、地域と一緒にアイデア創生のきっかけを作っていくとか、そういうプロセスも含めて総合コンテンツになるべきなんじゃないかと思うんです。きゃりーぱみゅぱみゅって、そう見えるんですよね。彼女は原宿生まれ、原宿育ちなわけではないけれど、本人が原宿カルチャーが好きで、自身がいち体現者としてそこに入っていって、それを中川さんたちがプロデュースして。それがすごく“原宿的”なものとして世界に解釈されて、コンテンツになっているじゃないですか。地域の方々から見たら、自分たちが作ってきた原宿と、コミュニケーションされる原宿のギャップみたいなものはあるんだろうけれど。

中川:原宿って、来る人、住んでいる人、働いている人がいて。僕らとしては、そのどれもが大事だと思っていました。原宿の街の人たちとコミュニケーションを取って、きゃりーのことを応援してもらえる、ファンになってもらえるってことを大切にしたんです。若者が遊びに来る場所という側面以外にも、あの街が持っているパワーや住んでいる人たちが作っているものを大切にして。ヒット祈願のお参りもちゃんと原宿でやるとか、そういうこともけっこう地道にやりました。地元に住んでる年配の方にも理解してもらえないと意味がないなと思っていましたから。

金山:ここまでの話を深めるために、僕が独断で観光資源を累計化したスライドを作ってきました。よく“Web 2.0”とか“Society 5.0”とか言われますけど、ここでは観光資源を1.0、2.0、3.0と切って……僕なりの解釈なので専門家に怒られるかもしれませんけど(笑)。それで言うと、1.0の時代は“観る”とか“食べる”とか、観光資源PRの時代だったかなって思っているんです。「広島に来たら牡蠣が美味しいですよ」「ついでにこういうものが観れますよ」とか、PR対象がすごく具体的だった。ちょうど今は2.0だと思っていて、こちらは体験型の観光コンテンツというか、最近だと“コト消費”なんて言われていますけど、企画を考える時代。例えばプロジェクション・マッピングのようなコンテンツが投入されることによって、昼にしか需要がなかった場所に夜型の需要がもたらせるなど。そしてアフター・コロナは3.0時代になるんじゃないかと思っています。これは、「リノベーション型・リミックス型の観光資源開発の時代」と表現しました。リミックスって、原曲は原曲で素晴らしいんですけど、再解釈を入れることで、新しい響き方、届き方を作っていく。それが売れていくことで、原曲も相対的に評価されていくってことですよね。

中川:1.0の時代は同じ場所で同じ物を表現するだけの一点突破のような形ですけど、そこに、例えば外国人の目線を入れたり、すでにあるものも切り口を変えることで、点と点になっていたものが繋がってくる瞬間が作り出せるんじゃないか……それは僕自身、Channel 47に可能性を感じているところですね。

VERBAL:一方で、物自体は変えずにそのままでも、UIを変えたほうがいいケースがあると思うんですよ。こんなことを言ったら怒られるかもしれませんけど、例えば政府のサイトとかって、どこに何があるか分かりにくいじゃないですか(笑)。ほかにも、英語と日本語を変換したときにUIがガラッと変わって、「あれ? 情報どこだっけ?」ってなるサイトも日本にはけっこうある。そういうものをユーザー・フレンドリーにするとか。ちょっとしたことだと思うんですよね。リミックスの例のように、ちょっと解釈を変えることで、そのままの良さも楽しんでもらうことができるといいですね。

ポストコロナのアウトバウンド戦略

金山:日本って、インバウンドの観光経済はいい成長シナリオを描けていたけれど、アウトバウンドは“成功までの道のりは険しい”って印象でした。Channel 47は、短期的にはインバウンドは視野に入れていくだろうけれど、アウトバウンド市場をどう取っていくか……中川さんはご自身も委員をやっていたクールジャパン機構の経験からも学んでいくところだと思います。

中川:クールジャパンの施策で思ったのが、どうしてもプラットフォームを作ろうとしちゃったなっていうのがあるんです。要は、日本人が作ったメディアを外国人に見に来てもらおうとした。正直、その厳しさを感じていて。ただ僕らって、コンテンツやクリエイティビティに力はあると思うんです。だからChannel 47では、地方の物と組んだときに、その事例をプラットフォームに持っていくんじゃなくて、コンテンツとして広めたい。それによって、より広めることができるんじゃないかと思っています。

金山:世界最大のアウトバウンド・コンテンツって、なんなんでしょうね。

VERBAL:やっぱりK-POPになっちゃうんじゃないですか。今の中川さんの話じゃないですけど、ハードを作っても結局……アメリカの話をすると、アメリカには今、300件くらいのアニメ / ゲームのイベントがあるんですね。それぞれ日本の文化に基づいたものですが、現地の人が勝手に盛り上がってくれているわけなんです。IPはそもそも日本発信なわけだから、そういうソフトを我々が持っていけば、絶対に成功するはず。例えば、いろんなプロダクションの垣根をこえて、いろんなアーティストが1曲ずつ歌ってメッセージを伝えて、ファンの人を喜ばせる。2万人くらいの箱でイベントをやって、どんどんカルチャーを広げていく……そういうことを、なんで日本はできないんだろう。大体、僕らって海外にコンテンツを持っていくにしても個別じゃないですか。だからみんなで行けばいいのにって思います。もちろん各自で行くのもいいんだけれども、ある程度1つの文脈ができてからのほうがパワフルなのかもしれないですね。

金山:僕、世界最大のアウトバウンド・コンテンツのレガシー・モデルは、中華料理だと思っているんです。世界中、中華料理を食べられない国と地域はないと思っていて。

VERBAL:なるほど。でもそこまで言っちゃっていいならいろいろありますよ(笑)。

金山:中華料理って、その文化を持ち込む人間が世界中に移住して、定住していった人の力も要因としてありますけど、それでも味の強さだけで、あそこまで広まったわけです。日本でもほぼ日本食のように消費されているし、さらに、日本ではそれを再解釈して、ラーメンだけ切り取って、ここまでやった国民じゃないですか。だからそういう再解釈を内々でやって、それを海外に持っていくのもいいんじゃないかと思うんです。日本食を、新しい世代の新しい価値観で再解釈して世界に持っていく。そうしてアレンジされたものが外で人気が出ることで、日本食の価値が相対的に上がる、みたいな。アニメもそうで、日本のコア・カルチャーだと思うんだけど、Webtoonなどで、韓国のほうがコンテンツ化が進んでいたりするじゃないですか。競争するわけじゃないけれど、日本のクリエイティビティをもっと稼げるってところまで持っていけたらいいんじゃないかと思うんですけどね……と、いうところでそろそろ時間になります。最後に皆さんからひと言ずつ、地方創生とか、地域の魅力を外に発信していくってことについてコメントがあれば。

西川:僕自身、活動していく中では、あまり堅苦しくSDGsやサスティナブルを語るんじゃなくて、ローカル・グッドな……ローカルに根付いた形を、“×エンタメ”でやっていけたらいいと思っています。

VERBAL:インバウンドがストップしてしまったので、これからはアウトバウンド強化。日本の持つIP、コンテンツをどうやったら効率的に皆さんに喜んでもらえるのかをゴールに、どんどん積極的にやっていくべきだと改めて思いました。

中川:どうしても今までできなかったところとして、地域との関係性の再構築をやっていくことが一番大切だなと。で、アウトバウンドの次はまたインバウンドも必ず来ると思うので、その可能性を信じて、地域の方々がお気軽にお話ししてくれるような関係値を作っていきたいなと思います。

金山:Channel 47の始動はいつでしたっけ?

中川:コンテンツはもう上がっていますけど、会社としては2022年です。

金山:いろいろな自治体の方が多角的に戦略を練り直しているところだと思うんですけど、こうして中川さん、VERBALさんのようなエンタメ業界を牽引している方々にフランクに相談ができる箱ができてくるので、皆さんに声をかけていただきたいですね。そして、変わろうという気持ちと、大切にしてしている価値観を明確に心の中に刻んで、一緒に企めればいいんじゃないか。単なる発注者・受注者のような関係じゃなくて、共犯者的な関係で地域の魅力を作っていけたらいいと思いました。今日は皆さん、ありがとうございました。