2022.07.13

ポストコロナで変わるライフスタイルと観光産業のこれから

ポストコロナで変わるライフスタイルと観光産業のこれから

<登壇者(※敬称略)>
佐別当 隆志(株式会社アドレス 代表取締役社長)
田邉 泰之(Airbnb Japan株式会社 代表取締役)
入江 真太郎(一般社団法人日本ワーケーション協会 代表理事)
斉藤 晴久(PerkUP株式会社 Co-Founder & COO)
ファシリテーター:小池 ひろよ(一般財団法人渋谷区観光協会 理事・事務局長)

「ポストコロナで変わるライフスタイルと観光産業のこれから」がテーマのセッション3は、佐別当隆志さん(株式会社アドレス 代表取締役社長)、田邉泰之さん(Airbnb Japan株式会社 代表取締役)、入江真太郎さん(一般社団法人日本ワーケーション協会 代表理事)、斉藤晴久さん(PerkUP株式会社 Co-Founder & COO)の4名をゲストに迎えました。佐別当さん、田邉さんの2名はリモートでの出演です。前半はそれぞれが取り組む事業の紹介、後半はクロストークという構成の同セッションから、クロストーク・パートをテキスト用に編集したものをお届けします。
※全編は映像でお楽しみください。

●“旅行”と“生活”の境界線が曖昧になっている

小池ひろよ:アドレスの佐別当さんにお伺いしたいのですが、『ADDress』の会員の方って多拠点生活をするわけですよね。どんな方が多いんですか?

佐別当隆志:地域の方とお会いする機会を楽しみにしているし、さらに自分の仕事が地域に活かせればそれが嬉しいという価値観の方は多いですね。もちろん会社によっては勤務時間が決まっていて、テレワークとはいえ平日の日中は缶詰めという方もいらっしゃると思います。ただ地方に行くとそういう働き方がだんだん嫌になってきて、「成果だけ出せばいいじゃん」というふうに変わってくるようで。それで会社に働き方を交渉する人も出てきますし、交渉してもうまくいかなくて転職をしたいう方も何人かいらっしゃいます。

小池:個人的に、雇い主側がより柔軟な働き方を解放していくべきなのかなというのは思います。Airbnbさんには“暮らすように旅をする”っていうキャッチフレーズがありますけど、ポストコロナでライフ・スタイルもだいぶ変わってきていると思います。観光旅行産業という視点では、ポストコロナでどんなふうに変わっていくと思いますか?

田邉泰之:いろいろなシナリオあると思うんですけど、現在弊社のデータで確認できている変化を3つ紹介させていただくと、1つめはリモートワークの普及などで職場や休暇に縛られなくなっているということですね。旅行の時期をより柔軟に選べるようになっている。実際、月曜日と火曜日の宿泊が非常に伸びています。2つめは旅行の目的地が広範囲になってきている。パンデミックが始まってから、少なくとも10万カ所の都市で1回は旅行の予約が行われていて、そのうち6000以上の都市で初めての予約が入りました。3つめは長期滞在が増え、“旅行”と“生活”の境界線が曖昧になっていることを感じています。2019年には、28日以上の滞在の予約が14%ほどだったのですが、2021年の第3四半期では、総宿泊数の20%に増加しています。

小池:我々の観光協会のスタッフを見ても、曜日や日数については柔軟な印象があります。そうなったときに、ユーザーは従来の旅の検索の仕方では満足いかなくなっているんだろうなとも思いますよね。そうやって、より長期間滞在しもらうことを前提にした切り口を取り入れていくのは、“稼ぐ力”というか、持続的な経営をしていくためのヒントになるかもしれません。ちなみに『ADDress』は旅行・観光という切り口のサービスではなかったと思うんですけど、結果的には、行き先で地域体験やアクティビティが盛んに行われていますよね。『ADDress』の会員が増えることで、観光産業に何か変化はあると思いますか?

佐別当:どうでしょうね。『ADDress』の利用者を見ると、多拠点生活が当たり前の方々なんです。傾向としては、毎日毎日飲食店で食事をするとお金もかかるから食べたいものは自分で作るし、一緒に食べる仲間がいたほうが楽しいし、という感じで、時間の過ごし方が観光的では全然ない。どちらかというと無計画で(笑)、北海道に行ったついでに東北を回ってくる、みたいな人が多い。それでいて、仕事をしながらなので、ワークスペースは絶対に必要。かつ、1日、2日ほどで場所を転々とするのはしんどいので、最低でも3日から1週間は滞在する。本当に気に入った人は1カ月以上滞在しますので、1カ所あたりの滞在日数も増えて、結果的に年間の利用日数も増えていく。だから観光的な滞在ではなくて、より日常生活に近い暮らしを求めていると言えるでしょうね。

●ワーケーションがもたらすもの

小池:入江さんにお伺いします。“ワーケーション”という言葉が使われるようになっていますが、人によって理解が違うからか、カオス感があるように感じているんです。“ワーク”と“バケーション”をあえて分けて考えなければいけないんじゃなかろうかって思っちゃうところがありますよね。

入江真太郎:たしかに「みんなカオス感を抱えているのかな?」って思うところはあります。僕自身はどう地元の方々と交流して、地元の方々しか行かないようなお店に行くとか、そういうことを仕事をしながらやっていきたいと思う側ですが、日本においては“ワーケーション”の解釈に2つのパターンがあると思っていて、1つはライフ・スタイル、ワーク・スタイル、自分の生き方、働き方、暮らし方をいつも意識している。あるいは、企業としてそういうものを認めていこうという考え方。もう一方は、言葉の議論ばかりしている層。それによってカオス感が生まれているのかなと思っています。特に観光産業でいうと、やっぱり“バケーション”がポイントになりますから、コンテンツばかり考えたりしていて。そうなると、結局元々の観光と変わらないわけです。

小池:我々が感じているところでいうと、“ワーク”と“バケーション”の間にあまり垣根はないというか。そういう分断がない感じ、つまり“ワーケーション”が1つの言葉として理解されるようになるには、どれくらいかかると思いますか?

入江:1、2年くらいでは正直難しいと思います。“ワーケーション”って言葉自体は、2005年くらいからアメリカではあったんですけど、日本では2020年あたりにクローズアップされて。だから日本人は「この言葉ってなんだ?」ってなっているところもあると思います。個人的には5、10年かけて浸透率が上がっていくんじゃないかって思っていますね。

小池:斉藤さんは法人向けに『コワーケーション(co-workation)』というサービスをやられていますよね。ワーケーションの法人からのニーズの有無についてはどう思っていますか?

斉藤晴久:コロナ禍においても、企業の研修などの需要が堅調に推移していることがデータとして顕在化しているんですね。だから今は皆さん「どうやってやるか」を考えているところなんじゃないかなって思っています。個人的には。ワーケーションって“ワーク+バケーション”もあるでしょうし、“ワーク+エデュケーション”“ワーク+イノベーション”など、いろんな“ケーション”があると思っていて。それを企業でどう捉えるかによって、例えば今まで会議室で研修をやっていたのが、違う場所でやろうかとか、川でチーム・アクティビティをやってみようかとか、いろいろな視点が出てくると思うんですよね。

小池:ほとんどの方がどこかの企業や団体に属しているわけですが、その中である程度の自由度を求めようとすると、労務の観点から、隠れワーケーターにならざるを得ないというところもデータに出ています。でも、会社として福利厚生の形で3日、5日、1週間とか、チームと一緒に行ってこいってことをやってみたときに、最終的に業績向上につながったり、チームが良くなったり、一緒に仕事をしたことがない同僚を好きなったりして、その会社に存在していることの大切さみたいなものも気付けて、会社を辞めずに済むんじゃないかみたいなこともあるかもしれませんよね?……こちらで言い過ぎましたけど(笑)。

斉藤:あると思います(笑)。

●地方の魅力を世界に伝えるために

小池:日本の地域、地方、ローカル……渋谷区もローカルですが、そういったところの魅力が、世界に広まるために必要なことはなんだと思いますか?

入江:日本の観光って、自分たちの地域の良いところばかりを言っている印象があるんですよね。客観的に見ると、どこも「自然がいい」「空気がいい」とか、そういう回答が多くて、似たり寄ったりに見えちゃう。だからもっと、その地域の素の部分だったり、悪いところもどんどん伝えていく。それによって、生活感も味わえるんじゃないかなって。そこの部分、日本の観光産業は脱皮していかなきゃいけないのかなっていうのは感じています。

斉藤:入江さんのおっしゃる通り、情報をどう可視化するかは大事だと思います。地域っていろいろな資産があって、やれることがいっぱいあるんです。でも、それは見つけにくい。だからこそ、それを簡単に探せて、簡単に体験できるサービスは、まだまだこれからやれることがあると思うんです。我々がその環境を整えることで、日本の魅力が世界に広まるきっかけになれるんじゃないかなって思っています。

田邉:観光産業を大きくしていくという意味では、今までの観光に加えて、“暮らすような体験”は非常に面白いと思います。その体験をよりディープにするには、地元の方が、地元のコミュニティをつなぐ役割をするホストさん……佐別当さんのサービスでいうところの“家守さん”ですね。そういう方々が、しっかり来た人たちにいろいろなおもてなしを提供することも大事なんじゃないかと思います。

佐別当:そうですね、田舎の日常生活を一緒に体験したい。例えば、あるおばあちゃんは、生活の中で普通に味噌作りをしているわけです。山羊の乳搾りをしてそれを飲んで、自分の畑や田んぼで作った米や野菜で料理をしている。しかも、その料理もおばあちゃんの知恵があって旨いと。それを体験すること自体が、普通じゃない。例えば冬だったら雪掃き。日常生活の中ではしんどいものかもしれないんですけど、海外の方で雪の体験したことがない人からすれば、普通に屋根の雪掃きをするとかは、おじいちゃんおばあちゃんとやるだけで普通に楽しい体験になる。そういうところにいかに関わる機会を作るかだと思います。

小池:なるほど。渋谷も結局同じだなって思っています。最終的には人。日本は“関係人口”に取り組もうとしていますけど、その支えになっているのは、やっぱり人なんだな。実は今、渋谷のどこかに“関係人口案内所”が作れないかなって思っているので、ここにいる皆さんにぜひご協力いただいて、「渋谷に来たらこんな人に会えるよ」「こんな体験ができるよ」っていうことができたらいいと思うんです。アクションにつなげることが大事と聞きますので(笑)、実現に向けて動いていけたらと思います。