2022.07.13

再起動すべきツーリズムビジネスの実態~DMO 取組み事例から学ぶ~

再起動すべきツーリズムビジネスの実態~DMO 取組み事例から学ぶ~

<登壇者(※敬称略)>
富樫 照幸(一般社団法人秋田犬ツーリズム 専務理事)
藤田 明久(株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション 取締役)
山邊 昌太郎(一般社団法人広島県観光連盟 チーフプロデューサー 兼 常務理事 事業本部長)
ファシリテーター:永谷 亜矢子(株式会社an 代表取締役/立教大学 経営学部 客員教授)、金山 淳吾(一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事)

「再起動すべきツーリズムビジネスの実態~DMO取組み事例から学ぶ~」がテーマのこの回は、ファシリテーターとして永谷亜矢子さん(株式会社an 代表取締役/立教大学 経営学部 客員教授)が参加してくださいました。登壇者は富樫照幸さん(一般社団法人秋田犬ツーリズム 専務理事)、藤田明久(株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション 取締役)さん、リモートでの出演となった山邊昌太郎(一般社団法人広島県観光連盟 チーフプロデューサー 兼 常務理事 事業本部長)さんの3名です。ここでは、本編の内容をテキスト用に編集したものをお届けします。
※全編は映像でお楽しみください。

●いまだにパンフレットばかり作ってない? 観光における6つの課題

金山淳吾:このセッションには、ファシリテーターとして永谷亜矢子さんにも参加していただきます。今、地方創生プロデューサーといえば永谷さんといえるほどの活躍で。永谷さんは観光庁や文化庁のプロポーザル事業の有識者として、コーチング施策を実践しているんですよね。観光庁や文化庁がコーチを付けて地域の活性化をやるというものですが……去年くらいから始まったのかな?

永谷亜矢子:3年前かな? 3年前はテストみたいな形でした。観光庁も文化庁も1000億円ほどの規模でプロポーザル事業をやっているんですけど、プロポーザルの建て付けって、どうしても公募じゃないですか。採択して、報告書を出してっていう形だし、環境のアップデートも激しいからなかなか継続しない。そうなると課題も明確になりません。そういった背景があって、コーチング施策を導入しています。いわゆる実証事業でもるんですけど。コーチングがどういうものかというと、これは観光庁に定義を作ってもらったものなんですけど、「事業の自走による継続、及び拡大を目指し、適切な事業体制、計画、販促、制作、実施等に関して改善指導やサポート、指南を実施するもの」。具体的には採択事業の選出をして、プロモーション、クリエイティブなどカテゴリによって課題は違うので、適宜プロを派遣する形でコーチングを実施しています。観光についても日本はツアーが多いですけど、多様化しているので、そのニーズにちゃんと応えられる方々を派遣する形で。

金山:3年間やってきて実感している課題だったり、見えてきたりしているものは?

永谷:プロポーザルの課題というよりも、地域の課題……課題のメモを持ってきたんですけど、これは事業を採択するだけじゃなくて、視察や現場のディレクションを通じて伴走することによって見出したものです。まずは、「地域の魅力をリプロデュースする」。要は、ほかの地域の人から見ると「こんなに素晴らしいのに」っていうものがあるのに、それが日常になっているので気が付けていないパターンが多いんじゃないか。それを発掘していかなくちゃならないんじゃないかっていうこと。それと、「情報発信」。できていないところは信じられないくらいできていないんです。だって、いまだにパンフレットばっかり作っていませんか?

藤田明久:……作ってますね(笑)。

永谷:作っちゃダメってわけじゃないけれど、いろいろな地域に行くと必ず20個くらいパンフが入っているプラスチックの袋を渡されるし、そもそも観光協会とかに行かないと手に入らないようなものって、そこに行かなかったらどうするんでしたっけ?っていう(笑)。本当に、旅前の段階で選んでもらえるようなSNS発信をすることだったり、20年もそのままのホームページを改修するところから手をつけないとまずいんじゃないですかね。DX、AR、VR、音声ガイドとかをやる前に、足元のことからやりましょうと。あとは、「担い手の育成」です。アドベンチャー・ツーリズムに観光庁の予算がかなり付いていますけど、コロナになって、自然を活用するニーズが高まっていると思うんです。その中で、ガイドさんがいないとできないアクティビティもあるのに、過疎化でその担い手がいない。地域おこし協力隊のような制度をうまく活用しているところと、そうではないところもあるし。

金山:スライドのパンフレットについてのところに、「ましてや立ち寄る可能性の少ない観光協会などに設置されている」って……僕もやっているかもなあ(笑)。

永谷:ほかの課題としては、「コンテンツの販売価格が低すぎる」。条例を改定して、商品単価の見直しを行うことが急務だと思います。海外だと、例えばヴェルサイユ宮殿なんかは2000円くらい入場料を取ったりするんです。でも、清水寺とかは拝観料が400円だし、200~300円のところもザラにあって。しかも、自治体の予算も防災とか移住にかける割合が高まって、文化財保護にかける金額が減って手入れができなくなっているところもある。加えて、近隣の人に親しみやすい金額設定にする条例があるから、単価が上げられない。さらには、「宿泊施設の圧倒的な不足、お金を落とす場所の不在」だったりもあります。こういったたくさんの課題を、広島、秋田、せとうちの方々がどう解決しているかを伺いたいですよね。

●観光大使が3200人! DMOの多彩な取り組み

藤田:今の話を地方として聞くと、総花的と言うか表面的な話で、個別では頑張ってるってところも多いと思うんですよね。そういった課題に対して、組織的にどう取り組んでいくのかをテーマにしたのがせとうちDMOだと思っております。我々は広域DMOという形で広島県を含む7県で構成していて、各県、各市町村のDMOと連携をして運営しています。

金山:ちなみに広域DMOとしてまとまったのって、瀬戸内以外にもあるんですか?

藤田:国内に10ありますね。

永谷:数ある広域DMOの中でも、しっかりしている印象がありますよね。広域って広いぶんディレクションがなかなか効かないところもあるから。

藤田:我々は戦略が明確で、6つのことをやっていこうと。まず、世界に通用する瀬戸内ブランドを確立するために、クルーズ、サイクリング、アート。この3つが、瀬戸内が世界の中で抜きん出ている可能性があるところだと思っています。さらに、やはりお金が落ちなければなりませんので、そこを解消するためには食、宿、地産商品。この3つをもっと洗練させていかなければなりません。この6つ以外の取り組みをやらないのかと言われるとそんなことはありませんが、基本的にはこの6つにつながっているかどうか。それを念頭に置きながら、事業者や自治体の皆さまと連携しています。組織としては、ー般社団法人せとうち観光推進機構、株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション、株式会社せとうちDMOメンバーズという3つの法人と、せとうち観光活性ファンドという1つのファンド。一般社団法人が何をやっているかというと、狭い意味でのDMOとしてのファーム・ツアーとか、欧米に対する働きかけなど。瀬戸内ブランドコーポレーションはシェア・ホルダーの6割が金融機関で、ファンドとして機能しています。株式会社せとうちDMOメンバーズは、ファンドを活用するスケールじゃない事業者さんたちに対して、情報の提供やコンサルを含めたサポートさせていただいています。

永谷:金融機関が参加しているのは素晴らしいですね。やっぱり地銀さんに地域経営を支えて頂かないと。補助金を活用しているだけだとノウハウも溜まっていかないし。

金山:せとうちDMOのような、広域地域を支えていて、さらに投資のサイクルまで回していけるような組織を持つ広島ですが、広島県観光連盟としてはどういった活動や戦略立案をしているのですか?

山邊昌太郎:私たちは、「リピーターブルな観光」をミッションに掲げて活動しています。広島って、修学旅行も含めて来てくださる方は多いし、一度は訪れたいと思ってもらえるところなんですけど、何度も訪れたい街になっていないことが大きな課題で。それを解消するために大きく3点ありまして、1つめは「お客様のことを知ろう」。お客さまが期待値を持って広島に来てくださって、そこで満足すれば口コミが広がり、また新しお客さまが期待値を持って来てくれる。満足してくださった方は、リピートしてくれる。だから、まずはその期待値を知ることと、期待値を超えることが一番大事なわけなんです。2つめは、「広島を再編集する」。お客さまも多様化していく中で、100万人が集まるものを1カ所作るよりも、1万人が熱狂するところを100カ所作ったほうがいいんじゃないかと。みんなが熱狂するものなんてなかなかできないわけで、一方で年間1万人来場する場所だと、1日あたり30人ですから。30人が集まるところであれば、皆さんの周りにもたくさんあるんじゃないの?って。3つめの大きなポイントは「顧客とのエンゲージメントを高める」。マーケティングの世界では当たり前にやっていることだと思うんですけど。その中で、「HITひろしま観光大使」という取り組みがあるんです。観光大使って、普通は偉い人や有名人だったりしますよね? でも「HITひろしま観光大使」は広く一般からも募っていて、現在3200名もいるんです。目指すところは当事者になってもらうこと。当事者になれば、街を綺麗するとか、困っている人を助けるとか、そういう人が増えて、広島がもっと良くなると思う。そんなきっかけになればいいなと。

金山:僕もけっこう渋谷で観光大使をたくさん作ったほうかなと思っていたんですけど、さすがに3000人はないです(笑)。続いて、秋田犬ツーリズムさんはどのような取り組みを?

富樫照幸:私たちは2016年に発足した地域連携DMOで、4市町村で構成しています。もともと観光地ではないところですが、観光をきっかけに人に来ていただいて、外貨を稼ごうというのが最初の発足の目的でした。せとうちDMOさんや広島さんと違ってどちらかというと自分たちで事業をしているんですけど、永谷先生の指摘の通り、戦略というものが不明確なまま事業を進めていて。今年度まで財源は地方創生給付金を使っていたので比較的潤沢に事業ができる状態で、「やれるものはとことんやっていこう、まずは、この地域を知ってもらおう」と、農泊関連から野遊び事業、秋田犬ドネーション事業、JSTS-D認証事業、地域の特産品である枝豆の商品開発、LINEを活用した野菜配達システム『モフーマルシェ』の開発など、いろいろな事業を手がけています。ただ来年度からは、事業費的にも縮小する見込みで、だからこそ戦略というものが必要になってくる。そこが小さいDMOの同じような課題かなと思っております。

金山:戦略のないまま進んでしまっているとおっしゃっていたわりには、けっこう多角的な事業にチャレンジしていますね。しかも、いくつか成果が見えそうなものまで出てきている。

永谷:皆さんのお話を聞いていると、地域にちゃんとデザイン力を入れて取り組んでいることがわかりますよね。秋田犬ツーリズムさんの『モフーマルシェ』なんて、ネーミング・センスが抜群じゃないですか。戦略を考えたときに、こういうデザインってなかなか入ってこないんです。ただ、思いついたことが全部できたら素晴らしいんですけど、課題はリソースですよね。皆さん、人材はそれぞれの地域で見つけてくるんですか?

富樫:私たちの場合は、外部の専門人材サービスに登録している方にアプローチして、運よく見つけたという感じですね。

金山:藤田さんにお伺いしたいんですけど、地域の観光協会って、地元に縁のある企業の方が出向してきたり、転籍して入ってきたり、自治体から天下り的に入ってきたりするケースが多いと思うんです。せとうちDMOのような広域DMOでは、広島や岡山や四国などで横の人材流通はあるんですか?

藤田:広域DMOって、各地域のDMOや地域連携DMOの上に立つ組織ではないんですね。それぞれの事情はありますし、人のやりくりなども含めて押し付けるわけにもいきませんので、やはりそれぞれの地元で考えなければならないと思っています。ただそのための武器としての情報は提供していくというか、観光庁がやっている専門家の人材派遣とか、そういったものは共有しています。

金山:山邊さんの話を聞いて、広島がエグゼキューションしているプロジェクトが非常にユニークだと思いました。これは内部のスタッフからの発案なのか、それとも、外からクリエイターやプランナーが企画を持ち込んでくれるのか。

山邊:私たちの組織は合計37名なんですけど、そのスタッフだけでやれることには限りがあるんですね。特にマーケティングやプロモーションの知見だったりは持ち合わせていないので、外部の方々とできるだけコラボレーションすることでやろうと。いろんなセクションにパートナーの人材を配置して……ここには東京の方もいらっしゃいますけど、そういう方々と一緒に考えているという感じです。

金山:なるほど……というところで時間が。時間が短くて、ディスカッションまではいけなかったんですけど。今回、僕は『LOOK LOCAL SUMMIT』を通して、いろんな地域でどんな戦略があって、どういうチャレンジがあって、どういうところに成果の兆しがあるのかと言うヒントをナレッジ・シェアできればいいなと思っています。現状では、各地でやっているユニークな施策が、あんまり流通していないなと。だからこそ、もっと開かれて、いろいろな自治体が良いところを学び合いながら研磨できるといいですよね。今日は時間が全然足りなかったから、また2、3回目と続けながら、ナレッジ・シェアしたいと思っています。